大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)4896号・昭42年(ワ)2500号 判決
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〔判決理由〕しかしながら、上記認定の諸事実によれば、原告は、津吉に対し、相互銀行から融資を受けるにつき諸手続をなすことを依頼し、その趣旨で津吉が行使すべき各種の書類に対する捺印を許容しているのであり、その中になんらかの委任状が含まれていたことも、当然予想していたと推認しなければならない。そうすると、原告は、津吉に対し、右の依頼の趣旨をこえぬ範囲内で代理権を授与したものというべきである。そして<証拠>によれば、被告は、それから程なくして津吉からこれらの書類の交付を受け、昭和四二年二月一八日、司法書士を介し、右のうちの抵当権設定金銭借用証書(乙第一号証の一)を原因証書として、前示所有権移転請求権仮登記および抵当権設定登記の各申請手続をなしたことが認められる。そこで、被告は、津吉が原告を代理して別紙目録記載の各不動産につき前示代物弁済予約および抵当権設定契約を締結し、かつ、これらに基づく右各登記の手続をなす権限を有していると信じていたし、また、かように信ずるにつき正当の理由を有していたと主張するのである。しかしながら、本人の委任状や印鑑証明書を持参して代理人と称する者が、実際に代理権を有しない事例がしばしば存在し、ことに、その代理人と称する者が本人を物上保証人として金銭を借り受けようとする場合においてしかりとすることは、世上顕著な現象であり、ことに、証人橋本正義および被告本人の各供述によれば、被告が金融業者であると認められるから、被告としては、当然右の事柄を熟知しているものと推認しなければならない。それにもかかわらず、被告が、津吉を介して原告と契約関係に立とうとするに先だち、原告本人に当つてみるなど、津吉の代理権限の有無、原告からの担保提供の意思の有無を確めるための適切な措置を講じたことは、本件の証拠上これを認めるに由がない。証人橋本正義および同野中静子の右証言によれば、被告は、右各登記がなされる直前ごろ、その従業員橋本正義を担保物件確認のため被告方に派遣したところ、橋本は、その際原告の内妻野中静子と面接しながら、原告の担保提供の意思の有無、津吉に対する代理権授与の有無につき質問を発することなく辞去し、ただ、右の際同女において、橋本ないしこれと同道の津吉に対し「お世話になります。」と述べたことが認められるのであるが、これをもつて被告が代理関係の存在を信ずるについての正当理由となすを得ぬことは、いうまでもない。被告の右表見代理の主張は、理由がないものである。 (戸根住夫)